手に入れたかったものは何だったのか。

ふと立ち止まって考えてみても、絶対に取り戻せないもの。
大きな時間の流れに揉まれ洗われ、記憶は一様に薄れてゆくばかりで、
かつての自分の事でさえも、うまく思い出せなくなる、瞬間が必ずやって来る。

私の場合は恐らく、これが人より激しい。
身の回りの世界が目まぐるしく変化したせいもあるのかもしれない。
歩みを進めるのが速すぎたのかもしれない。

時折ふと、昔がどうであったかじっと黙って思い出を辿ってみると、
いつも幸せな過去ばかりがこちらを見ている。
私はそれらが真実でないのを知っている。

剥がれ落ちた曖昧な過去の断片が足下に散らばり、それを見てみぬふりして、
そこに都合の良い妄想を繋ぎ合わせたもの。

それが私の記憶というものだ。

全体、私は何を目指してここまで来たのだろうか。
自分が抱いていた何らかの理由か、もしくは野望、或いは理想。
何でもいい、一つでも思い出すことが出来たら。

今となってはまるで別人のように生きる私の、その記憶の中に居る"彼"を、
こじつけの理由で埋めて、ただの思い出にしてしまわないように。

生暖かい感触が消えて、いつかその輪郭すらもぼやけてしまわないように。


――昔々の話をしよう。
ある王の、彼が王になる前の、虚飾の過去を辿る話を。





あの日、去って行く親友の腕を掴んで引き留める事だって、俺には出来たはずだった。

淡々と自分のことばかり話して、俺の話なんて一切聞かず、
まるで死にに行くような顔をして、それをまともに見せもせず、
黙って踵を返した彼を。

己の我が儘でもいい、ただあの時だけでももっと強気になれていれば、
こんな事にはならなかったかもしれない。
もっと素直にぶちまけてしまえば良かったんだ、俺の気持ちを。

本当は行ってほしくなんてなかったのに、
すっかり大人なふりをして、幼馴染の背中を黙って見送ったあの日の俺は、
自身の感情すら掴みきれないほど、混乱していたのだろうか。

ああ、でもよく考えてみれば、こうなるのが当たり前だったのかもしれない。

そもそも今までが都合が良すぎたんだ。
彼があんなところであんな風に生きるべきじゃなかったのは、最初から解りきっていたことだ。
それを無理に歪めさせてしまったから彼は、彼は。

せめて俺に代わりをさせてくれればよかった。
その方がどれだけ良かったか。俺ばかりが二度も"彼"を喪うなんて、理不尽な話だ。

俺を連れて行ってくれれば良かった。
俺に彼の代わりを。俺が彼の代わりに。

お前が俺を殺してくれたら良かったのに。


――そう、昔々の話をしよう。
世界を愛した王様の話。彼と、彼の盾になれなかった、哀れな男の話を。